チュムリアップ・スオ。こんにちは!
暑い日が続いていますね。そんな日は冷たいビールをグイッと飲み干したくなりませんか?是非とも当店をご利用ください!ビールにピッタリの新メニューの ご用意もしております。
今回はそんな新メニュー「ラープ」をご紹介させてください。
ラープは不思議な新感覚!?
ラープはひき肉を炒めた料理です。しかし炒めた肉は一度冷まします。その後でレモングラス、たまねぎ、赤ニンニク、ショウガ、ピーナッツ、そして炒り米を混ぜ合わせます。
この炒り米とはその名の通り、お米を炒ったものです。それをさらに砕いて粉末状にして混ぜ合わせます。酸味と辛味が効いた 刺激的な味付けです。 それをスティック野菜と一緒にいただきます。
お酒のおつまみにオススメします。
ラープはラオスの代表的な料理としても有名で、ラオスの国民食と言われています。
タイやベトナム、そしてカンボジアでもラープは食べられていて、お酒のおつまみや、お祝いの席で食べられています。
使用される食材も、魚や生肉を入れる所や、タイではパクチーなどの香草を入れたり、ご飯のお供として食べる所もあり、バリエーション豊かな料理です。
当サイトでラープを紹介する際に「サラダ感覚」と表現しました。スティック野菜と一緒に食べるからです。しかしラープという料理全体で見ると様々なバリエーションがあるので、レシピによっては「炒め物」や「和え物」に近い料理になることもあります。
カンボジアのラープとしては『世界のサラダ図鑑』には「ラプ・クメル」として以下のように紹介されています。
ラプ・クメル
セヴィチェ、カルパッチョとも比較されるマリネした牛肉のサラダ 牛肉を使ったカンボジア版セヴィチェともいわれるサラダで、イタリアのカルパッチョにも似ている。マリネ液にもドレッシングにもライム汁が入るので、とても爽やかで心地よい香りが食欲をそそる。
(佐藤政人『驚きの組み合わせが楽しいご当地レシピ304 世界のサラダ図鑑』p266より引用)
ここではサラダとして紹介されていますが、カルパッチョやセヴィチェ(ペルーのマリネ)と比較されているように「酢の物」に近いレシピとなっています。
サラダや炒め物や酢の物など様々な料理のカテゴリーを横断するラープは不思議な料理ですね。
ラープはラオスの幸せ?
実はラープはラオスの言葉で「幸せ」といった意味があるそうです。ラオスのラープについて以下のような記述がありましたのでご紹介いたします。
「ラープ」はラオスでいちばん有名といってよい国民のおかず。肉や魚、ときには貝類などのたんぱく質と、5~6種の葉野菜を濁り魚醤とライムで和えたもので、冠婚葬祭や誕生日、記念日など、お客さまを招くテーブルには欠かせない「ハレ」の料理だ。
ラープってどういう意味なのと聞くとみんな一様に「幸せ」とか「健康」「うれしい」といった意味合いの料理だと教えてくれる。日本でいったら「大福」のような、名前に料理の要素が見当たらないネーミングなのだ。
(園健・田中あずさ『旧フランス領インドシナ料理アンドシノワーズ』p55より引用)
ラープはラオスの人にとってお祝いや、おもてなしの席に欠かせない料理のようです。 ほとんどの料理は調理法や材料を名前に付けたりするものです。しかし、ラープがそうなっておらず、きちんとしたレシピも決まっていないのは、ラープ=「ラオスの人が考える『幸せ』の料理」だからなのではないでしょうか?
ラオスってどんなところ?
ところで皆さんはラオスのことについてご存じでしょうか?
ラオスは、北は中国、東をベトナム、西にタイとミャンマー 、そして南にカンボジア、これら五つの国に囲まれています。
海に面していない内陸国で山岳地帯が8割を占めます。人口は700万人ほどです。首都はヴィエンチャン。タイ東北部(イーサーン地方)に接しています。
ラオスの歴史を語るとき、ある王様の名前が出てきます。
その名はファーグム王。彼は1353年にランサン王国を建国します。ラオ族最初の統一王朝で、「ランサン」には「百万頭の像の国」という意味があります。
ラオ族は現ラオスの人口の半分を占める民族です。ファーグム王は現在でもラオ族の誇りを担う英雄としてあがめられています。
実はこれ以前のラオス史に関しては現在でも有力な資料が少なく、さらなる研究が待たれている分野でもあります。
「クンブロム年代記」という本によると、ファーグム王は現在のルアンパバーンの地を統治する国の王子でした。
ルアンパバーンは世界遺産にも登録されているラオスの古都です。
しかしファーグムはその地を追放されてしまいます。その後、なんとアンコール王宮、つまり今のカンボジアにたどり着きます。
彼はクメール王の下で育てられ、王の娘を妃として迎えます。そして、クメール王の兵を借りてラオス全体を統一したのです。
この「クンブロム年代記」は神話の要素を含み、正確な歴史書という訳ではないようです。しかしファーグム王の英雄伝は現在でもラオスで語り継がれています。
ラオスの苦難と奮闘の歴史
16世紀頃ミャンマーのタウングー朝に攻められたこともありました。それを撃退し、17世紀頃スリニャウォンサー王の時代に繁栄の時を迎えましたが、その後、国が三つに分裂してしまいます。
そうしている内にシャム(タイ)に攻められて支配下に置かれてしまいます。アヌという王がシャム支配から脱しようと反旗を翻しましたが、失敗してしまいます。
19世期になるとカンボジアとベトナムを手中に収めたフランスが今度はラオスを支配下に入れようとしました。
いまだラオスはシャムの支配下にあったため、ラオスの支配権を巡ってフランスとシャムで戦争になりました。シャムはフランスに破れ、ラオスを譲り渡しました。
第二次世界大戦が始まるとフランスの支配が弱まり、一時的にですが日本がラオスを支配しました。その際にラオスはフランスからの独立を宣言しました。
しかし大戦終了と共にフランスが戻ってきて再度ラオスを支配しました。
その後、フランスが事実上支配したラオス王国が誕生します。しかしどの国からも支配されない、完全な独立を望む人びとが立ち上がりラオスは内戦状態に陥ります。
やがてベトナム戦争が始まると、北ベトナム軍の補給線、通称「ホーチミン・ルート」がラオス内にあったことからアメリカから大量のクラスター爆弾による爆撃を受けます。この時の不発弾は今でもラオスの人びとを苦しめています。
しかし戦いは止むことなく続きます。
そして1975年、ついにラオス王国は倒れ、現在のラオス人民民主共和国が成立します。
当初は社会主義国家を目指していましたが、1986年以降「新思考(チンタナカーン・マイ)」を唱えて方針転換。市場経済化を進めるようになりました。
ラオスは苦難の歴史をたどり、今なお、貧しさや不発弾などの問題を抱えた国です。しかし、経済は少しずつ発展しており、これからが期待される国でもあります。
ラオスの料理だからって、いったいなんだというんですか?
ラオスと日本の繋がりで最近のものと言えば村上春樹さんの紀行文集『ラオスにいったい何があるというんですか?』 があります。
これは村上春樹さんがラオスに行く際に中継地点としてベトナムに立ち寄った際にベトナムの人から言われた言葉だそうです。それに対して村上春樹さんはこのように書いています。
しかしそう問われて、あらためて考えてみて、ラオスという国について自分がほとんど何も知らないことに気づく。これまでとくにラオスに興味を持ったこともなかった。それが地図のどのあたりに位置するのか、それさえろくに知らなかった。あなたもおそらく同じようなものではないかと、僕は(かなり勝手に)推察してしまうのだけれど。
(村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか』p151より引用)
村上春樹さんはルアンパバーン(書籍内の表記はルアンプラバン)に滞在されました。その間、村落を訪れたり、街の散策や寺院巡りなどをして、ゆっくりとした時間を過ごしたようです。
村上春樹さんはルアンパバーンの町をこのように書かれています。
僕の会ったこの街の人々は誰しもにこやかで、物腰も穏やかで、声も小さく、信仰深く、托鉢する僧に進んで食物を寄進する。動物を大事にし、街中ではたくさんの犬や猫たちがのんびりと自由に寛いでいる。たぶんストレスみたいなものもないのだろう。犬たちの顔は柔和で、ほとんど吠えることもしない。その顔は心なしか微笑んでいるようにさえ見える。街角には美しいブーゲンビリアの花が、ピンク色の豊かな滝のように咲きこぼれている。
(村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか』p171より引用)
ラオスはもう少しで脱却できると言われていますが、国連の定める「後発開発途上国」という世界の中でも貧しい国の一つだと言われています。
私たちが普段、囲まれているような開発された都市や、驚くような名物は少ないかもしれません。人によっては「何があるのか?」と言われてしまうほどの退屈な場所かもしれないでしょう。
しかしながら、ラオスを訪れた人々の中にはその地に魅了された人もいるようです。発展の中で失われてしまった昔の風景や、そこに住むどこか穏やかで、にこやかな人々。
そんなラオスの人達が「幸せ」と呼んだラープの味はあなたにとってどのように感じるでしょうか?
もしよろしければご賞味ください。
<参考文献>
佐藤政人『驚きの組み合わせが楽しいご当地レシピ304 世界のサラダ図鑑』誠文堂新光社 2021年
園健・田中あずさ『旧フランス領インドシナ料理アンドシノワーズ』柴田書店2020年
村上春樹 『ラオスにいったい何があるというんですか』文藝春秋2015年
『地球の歩き方D23 ラオス 2021~2022年版』ダイヤモンド社 ダイヤモンド・ビッグ社 2020年
森枝卓士(編著)石毛直道(監修)『世界の食文化―④ ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』農山漁村文化協会2005年
菊池陽子 鈴木玲子 阿部健一(編著)『ラオスを知るための60章』明石書店2010年