カンボジア料理 神楽坂 バイヨン

カンボジアとフランス、いまも残る功罪あわせた植民地の記憶

●いまや観光資源にもなっているコロニアルスタイルのホテル

 「東洋のパリ」。1970年代の内戦まで首都プノンペンの別名でした。インドシナを植民地としたフランスがまず進めたのはインフラ整備でした。鉄道や航路のほか、広い道路と街並みなど都市の環境も整えました。同時に在留するフランス人のために多くの建物を建設。その後の内戦で多くが失われましたが、当時のコロニアルスタイル(植民地風)の建物がいまも残っています。そのうちのいくつかはコロニアルスタイルのホテルにつくり変えられ、海外からの観光客の人気を集めています。

 コロニアルスタイルとは、高い天井で回る大きな扇風機、吹き抜けになったロビーと螺旋(らせん)階段、アーチ型の高い梁(はり)、バルコニー、レモン色の外壁などが特徴です。なぜか懐かしい気持ちになり心が落ち着く造りです。その時代にいたわけでもないのですが…。

 写真は「ラッフルズホテル ル ロワイヤル」。1929年「ホテル ル ロワイヤル」として開業。サマセット・モームやシャルル・ド・ゴールも宿泊しました。現在はラッフルズホテルが経営し、コロニアルスタイルにさらに磨きがかかりました。もうひとつは「エフシーシー ホテル プノンペン」。かつては外人記者クラブだったとのこと。雑然としたなかにもコロニアルスタイルのバルコニーが目につきます。

 カンボジア国内に残る植民地時代のさまざまな建物。100年以上の長い時間を経て、現在ではカンボジアの大きな観光資源になっています。

●パリで観光客を集めるアンコール・ワットの美術品

 1860年1月、フランスの博物学者アンリ・ムオーがアンコール・ワットに到着。壮大で芸術的、文化的な価値をもつアンコール・ワットを3週間にわたって調査しました。不幸にもアンリ・ムオは翌年11月にラオスで亡くなりました。アンリ・ムオーの調査内容は1868年に『インドシナ王国遍歴記―アンコール・ワットの「発見」』として出版され、ヨーロッパで大きな反響を呼びました。

 もともとアンコール・ワットの存在はカンボジアではわかっていたことなので「発見」というのはおかしな話です。大航海時代の「新大陸発見」という言葉もいまでは使われていませんね。しかし、その当時の西洋社会から見ると「発見」は仕方のないことかもしれません。

 1863年にカンボジアはフランスの保護領、つまり植民地となりました。これを機に多くのフランス人がこの地を訪れてアンコール・ワットの美術品をフランスに持ち帰りました。これらを集め、パリに「インドシナ博物館」が発足しました。

 同じころ、フランス、リヨンの富裕な家庭に生まれたのエミール・ギメが東洋の美術品を熱心に収集していました。日本では明治維新で廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)運動が盛んになっていたころです。ギメも廃棄されようとしていた多くの歴史的な文化財を収集しました。その後リヨンに「宗教博物館」を開館。やがて「インドシナ博物館」とも統合され「ギメ東洋美術館」となりました。現在は所蔵品の質の高さから、数多いパリの美術館のなかでも有名な美術館として多くの観光客を集めています。

 当時の西洋社会による収集と保存によって、東洋の美術品は廃棄、盗難、不法な売買などによる消失を免れたとも言えます。半ばする植民地化の功罪かもしれません。いつの日かフランスにあるアンコール・ワットの美術品がカンボジアに返ってくることも期待したいものです。

●カンボジアに定着したフランスパンとコーヒーの文化

 フランスパンとコーヒー。カンボジアの人びとにしっかりと根づいているようです。カンボジアのコーヒーはロブスタ種という豆を使っています。なのでちょっと強めの香りと苦味があります。カンボジアの人びとはコーヒーにコンデンスミルクをたっぷりと入れアイスで飲むのが好みのようです。当店バイヨンでもカンボジアスタイルのコーヒーを提供しています。やはり人気はコンデンスミルク入りのアイスコーヒーです。

 フランスパンを使ったメニューではお隣の国ベトナムのバインミーが有名です。カンボジアでも同じようにフランスパンのサンドイッチがあります。当店でもカンボジアンサンドイッチ「ノンパン・ダッサイック」として提供したことがあります。豚肉と魚・ピクルスなどをフランスパンにはさんだもので、ほどよい甘みと酸味が特徴です。

 フランスパンとコーヒー。カンボジア、ベトナム、ラオスのインドシナ三国共通のフランススタイルです。フランスの食材と文化はカンボジア料理やカンボジアの人たちの生活習慣にも大きな影響を与えました。

 1860年代にはじまったフランスのインドシナの植民地政策。その時代は日本でも幕末から明治維新の騒乱ころ。西洋の文明や文化が一気に流入し混乱と狂奔の時代でした。植民地政策の功績と罪過について一概に述べることはできません。しかし、カンボジア、フランスのどちらの国にも文化的な痕跡を残したことに間違いはありません。

<参考文献>
 増島 実『HOTEL INDCHINA(ホテルインドシナ)』集英社 2016
 アンリ・ムオ/大岩誠訳『インドシナ王国遍歴記―アンコール・ワットの「発見」』中公文庫 2002
 上田広美/岡田知子『カンボジアを知るための62章』明石書店 2012
 <写真>
 「ラフッルズホテル ル ロワイヤル」はWebサイトから
 「エフシーシー ホテル プノンペン」「ギメ東洋美術館」はGoogle Earthより
 「アンコール・ワット」はPixabayより

来店のご予約は TEL 03-5261-3534 受付時間 10:00~22:00

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