発酵食が人気です。ヨーグルト、納豆、みそ、ワインなどがおなじみですね。カンボジアにも発酵食品があります。「プロホック」です。小さな魚を塩漬けにして発酵させたもの。カンボジアでは調味料として欠かせないものです。魚の発酵食のもつ「うま味」がカンボジア料理をおいしくしています。
発酵食には3つの微生物(カビ・酵母・細菌)がかかわる
発酵食は微生物の働きによってできあがります。みそやしょうゆをつくりだすカビ(麹菌)。パンやワインなどをつくる酵母。ヨーグルトや漬け物をつくる細菌(乳酸菌)。発酵食品にはこの3つの微生物がかかわっています。
発酵食品であるワインは約8000年前に誕生したとのこと。発酵食には長い歴史があります。しかし2010年ごろからあらためて注目されるようになりました。健康に大きな影響があることがわかってきたからです。
腸内に100兆個あるといわれる細菌。発酵食品を食べることで腸内の善玉菌が増えます。これによって腸内環境が整い免疫力が向上します。つまり発酵食品は健康維持に欠かせないものということです。
日本にも世界にもたくさんある発酵食品
日本にはたくさんの発酵食品があります。日本など東アジアは高温で多湿の風土。この気候が発酵には都合がいいようです。
日本と世界の代表的な発酵食品を一覧にしてみました。こうして見ると発酵食品の数がすごく多いことがわかります。ほとんど毎日おせわになっていますね。
カンボジア料理のおいしさは「プロホック」から
カンボジア自慢の発酵食品はプロホック。塩辛のペーストのような調味料です。発酵食独特の香りと塩味の効いたうま味があります。
プラホックは湖や川でとれた小魚を塩漬けにしてつくります。当店シェフのレスマイの家でも、川の水がひきはじめる11月ごろから家でプロホックをつくっていたとのことです。つくり方は別表のとおりです。手間と時間がかかっていますね。
またカンボジアのしょうゆ、魚醬(ぎょしょう)の「トゥック・トレイ(魚の水の意味)」はプロホックをつくる過程で生まれるものです。
プロホックやトゥック・トレイなどの発酵調味料によってカンボジアらしい風味の料理ができあがります。
東南アジア全体に広がる魚の発酵食品
魚の発酵食品はカンボジアだけでなく、タイやベトナムなど東南アジア全体で広く食べられています。みなさんもタイのナンプラーなどはご存じかもしれません。各国の魚の発酵食品を一覧表にしました。塩辛も魚醬も日本と共通しています。
日本の塩辛の代表はイカの塩辛。そのほか酒の肴として人気の「酒盗(しゅとう・鰹の内臓)」や「このわた(ナマコの腸)」「めふん(鮭の内臓)」「うるか(鮎の内臓)」などがあります。
魚醬としてはハタハタからつくる秋田県の「ショッツル」、イカやイワシでつくる石川県の「イシル」、香川県には「イカナゴ醤油」などがあります。
おいしい理由。魚の発酵食品の「うま味」
石毛直道とケネス・ラドルは『魚醬とナレズシの研究』で塩辛や魚醬のうま味に注目しています。
20世紀のはじめごろ、それまで甘味・塩味・酸味・苦味の4種類とされていた味覚に、第5の味としてうま味が加わりました。日本の池田菊苗(いけだきくなえ)教授による発見でした。
グルタミン酸などのアミノ酸類がこのうま味のもととなっています。この後、味の素(株)から「うま味調味料」が開発され、東南アジア、世界へと「うま味」とこの製品が広がりました。
塩辛や魚醬にはグルタミン酸などのアミノ酸類が入っていて、うま味が豊富にあります。塩分も含まれるため調味料として最適なものとなっています。
日本のみそやしょうゆにも、塩辛や魚醬と同じようにうま味成分が入っています。日本や東南アジアの食事が世界から愛される理由はここにあります。
当店のメニュー「プロホックの野菜ディップ」で調味料としてのプロホックを味わうことができます。カンボジア風肉みそと野菜で、お酒が好きな人にはぴったりのメニューです。またスープ各種にもプラホックが調味料として使われています。カンボジアの「うま味」をぜひお試しください。
<参考文献>
金内 誠監修『理由がわかればもっとおいしい! 発酵食品を楽しむ教科書』ナツメ社 2023
横山 智『世界の発酵食をフィールドワークする』農文協 2022 (4章 山﨑寿美子)
石毛直道、ケネス・ラドル『魚醬とナレズシの研究』岩波書店 1990